はり術は、古代中国に発生した治療技術です。初めのうちは、できもの・腫れ物などを石の薄くとがった先で突いたり切ったりしていました。やがて、経験が積み重なって、気(エネルギー)が通る経絡という路が発見され、その路に気が溜まりやすい、気が漏れやすい、あるいは反応が出やすいツボ(経穴)というものが見つかりました。
さらに、この経絡は五臓六腑といわれるからだの内部である臓腑器官とからだの外部である皮膚を結びつけることも分かってきました。例えば、胃が悪いと背中の左側がはってくることを経験した皆さんもおられるでしょう。 このように、内臓の異常が体表の変化、特にツボに敏感に表れます。
またこの時期に冶金技術の進歩があり、金属を細くすることが出来るようになりました。(漢代のお墓からは、金製や銀製の医療用はりが発掘されています。)この細いはりを用いて、異常な反応の出ているツボを刺激して内臓の異常を調整出来るという重要な発見が有りました。この成果を今に伝える書物が、中国医学の完成された最古の文献 「黄帝内経」 です。
中国で完成されたはり術は、日本にもたらされ、改良が加えられました。特に大きな変革は、江戸時代に管鍼法という管の中に鍼を入れて 2mm ぐらいの鍼の先端を打ち込む方法が発案されたことでした。皮膚を刺す痛みが少なく、初心者でも鍼がうまく刺せるので、この方法は普及し、現在でははりの先生のほとんどが使っています。
また、日本のはりは中国のはりに比べて細く、材質もステンレスや金、銀など柔らかい金属で作られています。 現在の中国のはりは、太く長めでステンレス製です。そのはりを運用して、日本のはりの「響き」といわれる感覚より、明確な「得気」を重視しています。 はりを刺しているところが、しびれたり、重だるくなったり、ふくらんだ感じがすることです。
この中国のはりを使って針麻酔が開発されました。手足のツボにはりを刺し、低周波の電気を続けていると、体のある部分に痛みを感じない部分が生じます。 麻酔薬を使わずに外科手術ができ、患者は意識を保ちながら医師と会話をし、出血も少ないなど多くの特長が挙げられています。
また、耳針法も開発されました。耳の形は赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいる形に似ているという説があり、実際に試してみると確かに効果があります。皆さんも「やせる耳鍼」などと聞いたり、受けたりした方もおられるでしょう。 さらに、大脳皮質の局所機能が、頭皮に投影しているのではという発想から、頭針法も発見されました。
このように、中国では臨床分野の発展もありましたが、基礎的な研究も進めています。気(エネルギー)の通り道である経絡の具体的な現象もはっきりしてきました。経絡の流れに一致して発疹が皮膚に出る人の報告や経絡を流れる気の動くスピード、方向、病気の部分に達したときの効果なども詳しく発表されています。
国際学会も開催され、針麻酔時の脳内のモルヒネ様物質の誘導や循環血流の改善の機序、さらには、はりきゅう刺激による神経系・内分泌系・免疫系の複雑な相互作用についての情報が集められ、比較検討され、はりがなぜ効くのかという疑問が一歩一歩解明され始めています。